知っておきたい海洋散骨のメリットとデメリットを詳しく解説

近年、自然に寄り添った供養の方法として「海洋散骨」が注目されています。海洋散骨は、亡くなった方の想いや希望を大切にして、自然へと還る選択をする方法です。
従来のお墓に納めるやり方に比べて、自由度が高く、費用や管理の面でも多くのメリットがあります。
一方で、宗教的な考え方や昔からの習慣によっては、デメリットとなる事項もあるため、事前に十分な理解を深めたうえで選択することが重要です。
この記事では、海洋散骨を検討している方に向けて、ぜひ知っておいていただきたいメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
海洋散骨のメリット
海洋散骨は、今の時代の多様な生き方や価値観に合った、新しい供養の方法です。
海洋散骨のメリットは、以下の通りです。
- 故人の希望がかなえられる
- 墓地や納骨堂を準備する必要がない
- 墓地や納骨堂の維持管理が必要ない
- 家族や子供・孫に負担をかけない
- 宗教や宗派を問わずに供養できる
- 環境への負荷が小さい
- 霊園・納骨堂などの破産を心配する必要がない
それぞれのメリットについて、さらに詳しく見ていきましょう。
故人の希望がかなえられる
海洋散骨は、亡くなった方が「自然に還りたい」「海に抱かれて眠りたい」と願った想いをかなえる供養方法です。
特に、海を愛していた方や、海にまつわる思い出が多い方にとって、良い選択になります。
たとえば、海辺で育った方、マリンスポーツや釣りが好きだった方にとって、海洋散骨は自然な供養の形です。
また、残された家族にとっても「故人の希望を叶えられた」という満足感を得ることができ、心の整理(グリーフケア)にもつながります。
墓地や納骨堂を準備する必要がない
日本では、亡くなった方を供養するためにお墓や納骨堂を用意するのが一般的でした。
しかし、これには土地の購入費や管理料、お寺との契約など、多くのお金と手間がかかります。
特に都市部では、墓地の費用が数百万円になることも珍しくありません。
海洋散骨なら、こうした準備する必要がないため、大幅に費用を減らすことができます。
また、散骨を専門に扱う業者に依頼すれば、難しい手続きもまとめて引き受けてもらえるので、遺族にとっても負担が少ないのが特徴です。
墓地や納骨堂の維持管理が必要ない
お墓や納骨堂には、定期的な掃除や花を供える手間、さらには管理料の支払いといった維持管理がつきものです。
こうした維持管理は年に何度も必要になり、高齢になった遺族には現地への移動だけでも大きな負担となることもあります。
また、子どもや孫にこうした管理を引き継ぐのも難しくなる場合が多いです。
一方、海洋散骨では、物理的なお墓自体がないため、掃除や管理の必要がありません。
長い目で見ると、遺族の体力面・経済面の両方で負担を減らせる、合理的な供養方法といえるでしょう。
家族や子供・孫に負担をかけない
今の日本では、少子化や核家族化(一緒に住む家族が少ない形)が進んでいて、「お墓を守る方がいない」という現実があります。
「子どもや孫に迷惑をかけたくない」「地元に戻れない子どもに面倒をかけたくない」と考える方が増えているなか、海洋散骨は理にかなった方法です。
お墓という、代々引き継ぐ必要のあるものが存在しないため、家族に長く管理をお願いする必要がありません。
「亡くなった後まで、家族に重荷を背負わせたくない」という気持ちを形にできる方法であり、残された家族にとっても心と生活の両面で負担が軽くなるのです。
宗教や宗派を問わずに供養できる
多くのお墓は、仏教・神道・キリスト教など、特定の宗教や宗派に合わせた供養の方法が決まっています。
しかし、「宗教にとらわれたくない」「特に信仰はない」という方も多くなっています。
海洋散骨なら、そういった宗教的な制約がありません。
自由な形で送ることができるため、故人や家族の希望に合わせて柔軟に供養できます。
たとえば、黙って手を合わせるだけ、花を海に流すだけ、といった簡素で静かなやり方も可能です。
また、家族や親族で信じている宗教が違っていてもトラブルになりにくく、皆が納得できる形でお別れができます。
国際結婚や海外から来た方の場合にも、宗教や国の違いを気にせずに供養できる点はメリットです。
環境への負荷が小さい
海洋散骨は「自然に還る」という考え方が基本です。
お墓を建てる場合は、土地を整えたり、石材を使ったり、車でのお墓参りをしたりなど、さまざまな場面で環境に負担をかけることがあります。
しかし、海洋散骨なら、船で一度だけ海へ行って散骨(遺骨を撒くこと)を行えば終わります。
また、散骨前に遺骨は必ず細かく粉(2mm以下)にされ、環境に影響を与えないように、実際の散骨は、海岸から一定の距離がある場所で行われるのです。
さらに、散骨に使う花びらや袋に、自然にやさしい素材を選ぶ業者が増えています。
「自然を大切にしたい」「環境のことも考えたい」と思う方にとって、安心して選べる現代的な供養方法が海洋散骨です。
霊園・納骨堂などの破産を心配する必要がない
お墓や納骨堂は、お寺や企業などが運営していますが、なかには資金不足や経営難によって破産するケースもあります。
民間による霊園などでは、経営が安定していないこともあり、もし破産すると、遺骨を別の場所に移さなければならない状況になることもありえるのです。
そのようなとき、新しい納骨場所がすぐに見つかればいいのですが、そう簡単ではないことも多く、遺族にとってはストレスになりがち。
一方、海洋散骨は一度執り行えば、あとは特別な管理や場所を必要としません。
つまり、お墓周りの経営母体の存続を心配する必要がなく、「いつの間にか供養の場所が消えていた」というようなリスクがありません。
このように、不確実な未来への不安を取り除ける点も、海洋散骨のメリットといえます。
海洋散骨のデメリット
海洋散骨は、今の価値観に合った自由な供養の方法です。
しかし、昔ながらのお墓とは大きく異なるため、次のような注意点もあります。
- 遺骨が残らない
- 墓参りができなくなる
- 親族に理解が得られずトラブルになることがある
- 天候によって散骨の日程が変わることがある
- 粉骨をしなければならない
以下からは、それぞれのデメリットが実際にはどんな内容なのか、ひとつずつ見ていきましょう。
遺骨が残らない
海洋散骨では、基本的に遺骨をすべて海へ撒いてしまうため、家族の手元に何も残りません。
そのため、「形として何か残しておきたい」「故人がそばにいると感じられる場所がほしい」と思う方にとっては、寂しさや物足りなさを感じることがあります。
そうした思いを感じる理由は、人によっては、手を合わせたり話しかけたりできる場所があることで、心の整理がしやすいという場合もあるからです。
このような場合には、すべての遺骨を海に撒くのではなく、一部を分骨(ぶんこつ:遺骨を分けること)して手元に残す方法もあります。
たとえば、小さな骨壷(こつつぼ)に入れて仏壇に置いたり、ペンダントに加工して持ち歩くといった方法もあります。
墓参りができなくなる
お墓に埋葬した場合は、命日やお盆などに家族が集まって墓参りをします。
お墓には、亡くなった人が眠っている場所、亡くなった人と対話できる場所、家族のつながりを感じる場所という役割があります。
しかし、海洋散骨をするとこのような物理的な場所が存在しなくなるのです。
そのため、海洋散骨だと「どこに手を合わせたらいいかわからない」「家族で集まる場がなくなってしまった」と感じる方もいます。
また、高齢者世代だと「墓がないと成仏できない」と受け止めてしまうケースも考えられるでしょう。
最近では、こういった個別の考え方などに配慮して、散骨をした海域に向かって手を合わせたり、自宅などに記念碑や祭壇を設けて心のよりどころを作る方も増えています。
しかし、どうしても馴染めないという方がいることには注意が必要です。
親族に理解が得られずトラブルになることがある
海洋散骨は、まだ一般的とはいえません。
したがって、特に年配の親族など、保守的な考えを持つ方には、以下のような形で受け入れられにくい場合があります。
- 「代々続くお墓があるのに、なぜそこに入らないのか」
- 「海に撒くなんて、故人を大切にしていないのではないか」
また、散骨をしたあとに「やっぱりお墓を建てたくなった」と思っても、遺骨はすでに手元にないため、元に戻すことはできません。
そのため、海洋散骨を選ぶ際には、家族や親族とあらかじめ話し合い、きちんと理解を得ることが重要です。
遺言やエンディングノートに希望を書いておくのも一つの方法ですが、それだけでは不十分な場合もあるため、直接説明して理解してもらうことが大切です。
親族の考え方や宗教、家族の関係性によっては、丁寧な配慮と時間をかけた説明が必要になるケースも考えておくべきでしょう。
天候によって散骨の日程が変わることがある
海洋散骨は、船に乗って沖の方まで出て行うため、どうしても天気の影響を受けやすくなります。
たとえば、台風や強風、波が高い日などは、安全のために予定が変更されることがあります。
そのため、遠くから来る親族がいたり、法要と同じ日に散骨を予定している場合には、スケジュール通りにできない可能性があると意識しておいたほうがいいことも。
特に梅雨や台風の時期などは、天気が変わりやすいため、あらかじめ予備日を設定しておくと安心です。
また、船酔いや長時間の移動が心配な高齢者がいるなら、家族が船に乗る代わりに、散骨業者にまかせる「代理散骨」という方法が向く場合も考えられます。
家族の健康や事情に応じて、無理のないやり方を考えておくことが大切です。
粉骨をしなければならない
海洋散骨を行うには、「粉骨(遺骨を細かく砕くこと)」が必要になります。
1991年、法務省は「節度をもって行われる限り、海洋散骨は法律違反ではないという見解を出しました。
この「節度」の中に「人骨とわかる形では、遺骨をまかないこと」という意味が含まれている、と一般的に解釈されています。
また、法律ではありませんが、厚生労働省の「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」に「焼骨(しょうこつ:火葬した遺骨)は、その形状を視認できないよう粉状に砕くこと」というように粉骨することを提示しています。
さらに、一般社団法人日本海洋散骨協会による「日本海洋散骨協会ガイドライ ン」では「加盟事業者は、海洋散骨を実施するにあたり、遺骨を遺骨と分からない程度(1~2mm程度)に粉末化しなければいけません」とされています。
こうした考え方により、散骨にあたっては、遺骨を2ミリ以下の粉状にする「粉骨」という処理が必要です。
粉骨処理は自分でもできますが、かなり手間がかかります。
それどころか、精神的にもつらくなる人が多いため、多くの方は専門業者に依頼するものです。
専門業者に依頼した場合、費用はだいたい数万円かかります。
また、すでにお墓に埋葬していた遺骨を粉骨する場合は、乾燥させる作業も必要になり、追加料金がかかることがあります。
さらに、粉骨をお願いしてから完了するまでに日数がかかることもあるため、スケジュールには余裕を持っておいた方が安心です。
粉骨処理については「遺骨を砕くのがつらい」と感じる方もいるため、あらかじめ家族と相談しておき、心の準備をしておくことが大切です。
また、一部の自治体では、衛生面やご近所への配慮のため、自宅や集合住宅で粉骨を行うことに注意を促している場合もあります。
たとえば、東京都23区・横浜市・京都市・軽井沢町などでは、粉骨に関する条例はありませんが、独自の考え方を公表しているため、事前に確認しておくと安心です。
海洋散骨をする際は、事前にメリットとデメリットをよく理解しておくことが大事!
今回は、海洋散骨について「どんなメリット・デメリットがあるのか」について、それぞれ詳しく解説してきました。
海洋散骨は、亡くなった人の「自然に還りたい」という希望を大切にしながら、残された家族の費用や管理の負担を減らす、現代的で合理的な供養方法です。
特に、これからのお墓の継承が難しい時代においては、無理のない故人の見送り方として注目されています。
ただし、物理的に遺骨が残らないことや、お墓という形ある場所がなくなることで不安を感じる人がいるのも事実です。
また、親族の理解が得づらい可能性があったり、粉骨の手間や気持ちの面での負担などもあり、こうしたデメリットもしっかりと理解しておくことも重要です。
何より大切なのは、故人の思いをくみ取りながら、家族全員が納得したうえで見送り方を選ぶことです。
メリットとデメリットを比べながら、後悔のない判断をしてください。